1968年12月20日に開催された参議院の予算委員会質疑にて、自由民主党の石原 慎太郎議員と、同じく自由民主党の外務大臣、愛知 揆一議員の議論を要約してお届けします。
本委員会開催の3年前にあたる昭和40年8月。現役総理として、戦後初の沖縄訪問を果たした佐藤榮作首相は「沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国にとって戦後は終わっていない」と演説。
これに対し、アメリカ政府も「基地機能の確保を条件として沖縄返還に応じる」との結論を出しました。
その翌々年、昭和42年11月の日米首脳会談にて返還時期の決定が合意され、沖縄返還の実現性が現実のものとなりました。
議論サマリー
石原 慎太郎(自由民主党)
われわれが攻撃的軍備を持つことを幸か不幸か規制している「憲法」。驚異的に発展してきた「日本の経済力」。この2つの確保と増大こそが国益に資すると考える。日本に台頭しつつあるナショナリズムが求める『自主独立外交』について、外相はどんなお考えか?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
石原 慎太郎(自由民主党)
(佐藤榮作)総理が日本のこれからの外交を語られた際、「サードパワー」という言葉があった。「核を持てるのに持たずにいる、それだけの経済力・文化力を持った第三勢力の指導国になる」との表現。今後の日本を暗示していて印象深いが、具体的にはどうされるのか?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
核を持とうと思えば持てる科学技術力はあるが、これを持たないで済ましていこうという意図と思う。かつては武力によってだったが、これからは科学技術力を高度に発展させ、他の国々に色々な意味で協力していく
石原 慎太郎(自由民主党)
いま、核を持つ力がありつつ持っていない国はドイツ・イタリア・スウェーデン・イスラエルなど、多くある。「核拡散防止条約」に調印できるのはそうした国々になると思うが、この条文を見ると内容が非常にあいまいと感じる。日本としてこのままでいいのか?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
まだまだ不満足な点はあるが、わが国も主張を自主的にしており、この条約はわれわれの望む方向に数歩前進している。調印の時期やその他についても、拒否するような態度はとらず、前向きに考えていきたいと思っている
石原 慎太郎(自由民主党)
我々の利益に沿って前進してきたことは認めるが、この最終稿を見ると非常に問題が多い。特に「査察」の条項。このままでは、今入っている国際原子力機関の調査以上に強い調査を受け、日本の技術的ポテンシャルが外国へ漏れる恐れが強いと思うが、どうか?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
まだ調印の時期をはっきり決めきれていないが、いま仰ったことは私もずいぶん同感の点が多い。関係国との折衝でどう取り上げられるか含め、私の方でもう少し検討させていただきたい
石原 慎太郎(自由民主党)
たとえば査察官の選定や査察の技術基準の設定など、修正を日本のイニシアチブで行ってほしい。
これからの外交を考えるにあたり、世界的に核戦争の起こる可能性は増えつつあるか?それとも減りつつあると思われるか?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
即座にどちらかとは言い切れないが、現時点で考えれば、核が戦力として使われたら人類は破滅する。私はおそらく使う者はなかろうと思うし、それを期待する
石原 慎太郎(自由民主党)
おっしゃる通り。核戦争の危険性は、日増しに私は軽減されていくと思う。その上で、沖縄に今ある核兵器の存在をどう考えているか?沖縄返還の実現を阻害する要因になりうると思うが
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
抽象的に答えざるを得ないのだが、私は返還をできるだけ急ぎたい。政府としての考えをまとめ、会談を進めながら円滑で最善の方法を選択したい。直接の答えにはなっておらず恐縮だが、もう少し時間が欲しい
石原 慎太郎(自由民主党)
われわれ自民党は2年後の1970年、日米安保条約に「自動継続」で臨むようだが、私はそれは妥当と思う。現状のまま延長するのでなく、状況に応じて柔軟に修正を加える余地は残すべきと考えるが、今の核の話も踏まえ、これから先の安保の態様も変わる余地はあるか?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
まだ政府としての見解・態度を明確にしていないが、自民党の大部分の空気としては自動継続に賛成。政府の立場としても、安保条約に象徴される安全保障の考え方が日本の国益に最も合致するのは言うまでもない。来年6月までに考えをまとめてご理解いただくようにしたい
石原 慎太郎(自由民主党)
英仏中などの大国は、核装備を増すことで経済的に過重な負担を負って疲弊している。日米安保によって日本はこうした開発をせずに済み、非常に経済成長している。どうも国民は、こうしたメリットを理解していない。もっと安保に関する啓蒙が必要では?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
全く同感。安保条約のメリットは主に日本のためにある。この安保の意義をあらためて皆さんと考えることが、国民へのPRにも通じるのではないか。社会党やほかの政党の方々も、お取り上げいただければ国益増進になると考える
石原 慎太郎(自由民主党)
一方、北方領土の問題について。どうも歴代の外務省や政府は消極的と感じる。今ソビエトはシベリア開発に非常に意欲を燃やしており、これに日本が経済的に参加するならばソビエトもそれを望むと思う。沖縄返還が実現しつつある今こそ、そうした外交的取引を強化すべきでは?
愛知 揆一(自由民主党・外務大臣)
日ソ間の懸案についてはこれまでも話し合ってきているが、「領土については解決済み。もう終わりだから他の問題をやろう」というのが向こうの基本的な態度のようだ。本国会の総理の所信表明通り、北方領土問題は政府として特に力を入れたいと考えている
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