1965年12月3日に開催された参議院の日韓条約等特別委員会にて、公明党の黒柳 明議員と自由民主党の佐藤 榮作 内閣総理大臣の議論を要約してお届けします。
アメリカの強い後押しもあり、同年6月、佐藤榮作政権は韓国の朴正煕政権との間で日韓基本条約を調印。これにより、日本は韓国を「朝鮮半島 唯一の合法政府」と認め、韓国との間に国交を樹立しました。
条約締結に際しては、日韓両国民の間で激しい反対運動が起こり、日本側は学生活動家や旧社会党などがこれを主導しました。
本委員会の翌日に当たる12月4日、自民党は強行採決を実施し、12月11日の参議院本会議では自民・民社党のみで可決する形で日韓基本条約が成立しました。
議論サマリー
黒柳 明(公明党)
私は日韓の国交が正常化されることに対して反対するものではないが、総理は「日韓基本条約」を締結した基本理念は「戦争の爪痕を癒す・過去の清算」。つまり終戦処理だとお考えか?
佐藤 榮作(自由民主党)
黒柳 明(公明党)
その「友好」とは、どういうことを指すのか?条約の中身を見ると、食い違いや解釈の違いが目立つ。与党の統計でも、国民の47%は本条約が「不可解である」と出ているが、日本国民の信義は無視されてもいいのか?
佐藤 榮作(自由民主党)
真の友好のためには、両国が遠慮なしに意見を言える仲になるべきと考える。しかし、日本が過去にとった態度等にはかなり説明を要する。弁解する必要もある。これは政府だけでは不十分で、過去の良い意味の友人も多くいるわけだし、国民も協力してほしい
黒柳 明(公明党)
過去14年間の日韓交渉の発言で、「36年間、日本が朝鮮を統治したことは朝鮮人にとって有益」「日本は良いことをやった。努力したが、戦争に負けたので努力が無駄になった」といった発言が非常に問題になった。友好とは矛盾する態度と思うが?
佐藤 榮作(自由民主党)
韓国の大統領も、「国交正常化は急ぎたいが、国民相互はなかなか理解に達しないことが誠に残念」としばしば言われていた。色々な出来事があったが、14年の長い交渉を持った結果、だんだんとお互いを理解できた
黒柳 明(公明党)
立ち入ってお伺いしたい。今回調印された外務大臣、椎名悦三郎氏の名で執筆された昭和16年の本に、「不足する場合、朝鮮よりの移住労務者を以て充てることとした~(中略)~朝鮮人労務者を移住せしむる計画をたてて居り・・」とある。強制連行の一つの原因と見るが、反省されているか?
椎名 悦三郎(自由民主党)
その本は部下の連中が私の名前を使って書いたもの。当時の物資調達の精神や手続きを書いたもので、戦時経済上、国民にとって便利な本にしたかった。内容等は一切知らないが、「私の名で発行してよい」と許可したため責任は免れない。誠に申し訳ない
黒柳 明(公明党)
『対日請求8項目』の中に「強制労働者への請求権」が出てくるが、「裏づけがない、事実が明白でない」として反故にされている。しかしわが国は強制労働をやった。反省しているなら、その人たちに対して補償を考えないのか?
佐藤 榮作(自由民主党)
この問題は長い年月が経っているし、日本も敗戦や本土爆撃という大混乱があり、朝鮮半島にも大動乱があった。事実を裏づける資料も残っていないので、その件は合意の上で完全かつ終局的に終了とし、8億ドルの経済協力をすることにした次第である
黒柳 明(公明党)
私が法務省に資料要求したところ、終戦の時に「焼けちゃったから無い」と言っていた資料が、あとから一つ二つどんどん出てきた。そういう椎名外務大臣。対朝鮮問題に関しては若干うまくないのではないかと思うが、なぜ総理は主席全権として行かせたのか?
佐藤 榮作(自由民主党)
椎名君が今年2月、ソウルで韓国の外務長官や総理と会った際に大変好感を持たれた。彼の、日韓の不幸な出来事について反省しているとの話を、私も涙が出る気持ちで聞いた。それが韓国国民からも迎えられ、最終的な調印に至った。椎名君の人となり、持ち味によるものと思う
黒柳 明(公明党)
お兄さんの岸信介総理が特使を朝鮮に派遣した際、李承晩大統領に謝罪している文が新聞にあった。「伊藤博文公が日韓関係に犯した過ちを償わなければならない」、「日本の軍部の行為が韓国に重大な損害を与えたことは遺憾」とあるが、佐藤総理はこれと真逆の立場では?
佐藤 榮作(自由民主党)
岸前総理がどういう話をしたかは詳しく知らない。いま名前を出された伊藤博文さんは同郡、隣村の出身。吉田元総理からも「君の先輩が間違ったのだ。君はこれを後始末する責任があるのだ」と言われた。そういう意味で、私は今回の友好関係樹立を喜んでいる
黒柳 明(公明党)
総理も、伊藤博文はうまくないことをしたと認められた。であるならば、道義上からも朝鮮の人たちの事をもう一回考え直し、経済協力にとどまらず、もっともっと検討して賠償を払う。それ相当の面倒を見てやるというお考えが出てこないものだろうか?
佐藤 榮作(自由民主党)
私は「譲り過ぎたのじゃないか。政府は軟弱外交だ」と国民の一部から叱られている。相互の互譲の結果としてまとめ上げた条約で、これは妥協の所産である。そうして韓国側も本条約を承認したところなので、皆さん方にもこのままで承認いただきたい
黒柳 明(公明党)
旧条約の外交文書を読むと、「韓国政府顧問であった石塚英蔵が第四実行者として、独立運動の先鋒であった朝鮮王妃の閔妃を殺した」とある。伊藤博文の悪を認め、椎名外相も過去の事を悪と認めるならば、この事実も当然認めなければならないのでは?
佐藤 榮作(自由民主党)
冒頭申し上げた通り、日韓関係には過去の不幸な歴史がある。これらについては私どもも十分反省し、過去を清算して明日に希望を抱く。そのために親善友好の関係を樹立し、韓国の繁栄への道をたどりたいと思う
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