1949年11月19日に開催された衆議院の予算委員会質疑にて、日本民主党の中曽根 康弘議員と民主自由党の吉田 茂総理(兼:外務大臣)の国会答弁を要約してお届けします。
第二次世界大戦が終結し、ドイツの東西分裂が確定。アメリカが「日本との講和を検討中」であるとの発表がなされた時代。当時、内閣総理大臣と外務大臣を兼務していた吉田茂内閣はこれを歓迎しましたが、「敗戦国日本」として、どのような体制で講和会議に臨むかが議論の焦点となりました。
議論サマリー
中曽根 康弘(日本民主党)
民主党を代表してお尋ねする。(太平洋戦争の)講和会議をどういう政治体制でわれわれは乗り切るのか?単独内閣でやるのか、連立内閣でやるのか。それとも、共産党を除く挙国連立内閣でやるのがよろしいか?
中曽根 康弘(日本民主党)
講和会議には与野党の挙国一致で臨むべきと思う。従って、だれが総理大臣になろうと我々は国家のために協力する。総理は、そういった挙国一致の態度すらも必要ないと思われるのか?
吉田 茂(民主自由党)
いま言った通り、日本国が安定し、外国から見て真に国際団体の一員として迎えるに足る信念を与える政治構成がよい。そうとしか私はお答えできない
中曽根 康弘(日本民主党)
ならば具体的に尋ねるが、吉田内閣がこのまま続いて行くことが世界から信用され、安定して行くと?この内閣で講和会議を乗り切れるとお考えか?
吉田 茂(民主自由党)
私はそう考えている
中曽根 康弘(日本民主党)
われわれ国民が心配なのは、日本の自衛問題とか国際連合に加入するとかの議論になった時、憲法改正を必要とする事態が来るのではないかということ。吉田総理は、憲法改正のご意思があるのか?ないのか?
吉田 茂(民主自由党)
私は憲法改正の意思はない
中曽根 康弘(日本民主党)
ともかく日本は、東南アジア諸国にかなりひどいこともしたので大分誤解もあると思う。それを解くため、アメリカ含む、フィリピンやビルマなどの議員を日本へ招待する、または総理自身がそれらの国に行かれるのはどうか?
吉田 茂(民主自由党)
たいへん結構だと思うが、日本としてただちに交渉を開くことができない。外交関係が閉ざされているため、今どうするこうするということは申し上げにくい
中曽根 康弘(日本民主党)
ポツダム宣言によって降伏したが、われわれは無制限に義務だけ負うのか?国民が大変心配している。同胞がいまだにソ連から帰って来ていないのはポツダム宣言違反。これを救済する方法は絶対にないのか?アメリカ経由で国際連合に問題にしてもらえないのか?
吉田 茂(民主自由党)
事実、アメリカ政府も巻き込み、手を替え品を替えソ連と絶えず懇談して希望した。しかし、結果として遂還されていない。これに対してどうするかは、外務大臣を兼務している私には答えにくい
中曽根 康弘(日本民主党)
外務大臣が答えられないとなると、日本の遺族や国民の悲しみは講和会議後も解けない。敗戦後に生き残った我々としては申し訳が立たないが、このままで良いとお思いか?どんな打開策を持っているのか?
吉田 茂(民主自由党)
無論、私としてはこのままではいけない。困る。未帰還者の家族・親戚が本当に気の毒だからこそ、出来る限りの手段を講じている。かといって、私の地位で今「こうする、ああする」とは申し上げにくいのだ
中曽根 康弘(日本民主党)
交戦国同士は戦争状態が継続中でも、スイスなどの中立国とわれわれは戦争状態には無い。いま日本を管理しているマッカーサー元帥やその他機関に言って、中立国との外交を復活させてもらえる見込みは無いのか?
吉田 茂(民主自由党)
現在は連合国によって日本の外交権が停止されている状態。総司令官の指揮の下に入っているため、それは出来ない。希望としては打開したいが、どうにも出来ない
中曽根 康弘(日本民主党)
もう一つ伺う。われわれはポツダム宣言やカイロ宣言の制約下にはあっても、ヤルタ秘密協定(ソ連の対日参戦と、戦後の領土に関する米英ソ間の密約)とは何ら関係がないと思うが、総理はどう考えるか?
吉田 茂(民主自由党)
アメリカ側の見解としては、ヤルタ協定やその他協定に対して日本国民は主張が出来ない地位にあると、トルーマンだったか誰かがアメリカ政府の意見としてはっきり述べている
中曽根 康弘(日本民主党)
アメリカの見解はそうかもしれないが、日本の外務大臣として条約解釈をした場合にどう考えるのか?それを聞いている。講和会議で領土条約の話になった時のため、考えておかねばならない
吉田 茂(民主自由党)
日本としては、アメリカの解釈に従うしかない状態に今はあると思う
中曽根 康弘(日本民主党)
もう1点。吉田内閣の、在日朝鮮人連盟の解散、朝鮮人学校の閉鎖といった一連の政策。私はあれを見て非常に悲しんだ。今まで迷惑をかけた近隣の諸国人に対し、どうしてあのような刺激的な政策を取ったのか?
吉田 茂(民主自由党)
各地で密輸入や強盗・窃盗、殺人事件など、色々な不詳事件が朝鮮人によって起こった。治安維持のためにやむを得ずしたもので、決して朝鮮人に同情のない訳ではない。一方、日本の法律や治安を破る朝鮮人は送還したいが、総司令部との関係もあって交渉中だ
中曽根 康弘(日本民主党)
断っておくが、私は朝鮮人でも共産党員でもない。将来の日本のために言っている。日本が過去に東亜各地でやった罪業は、強盗や強姦をされたぐらいで拭われない。あなたはそのうちお亡くなりになるから良いかもしれないが、我々は後で大いに迷惑する。二度とそうした政策をやらぬよう希望して質問を終わる
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